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大学プログラム

北國健康生きがい支援事業
金沢学院プログラム
金沢学院短期大学専攻科(食物栄養専攻)開設記念

第1回講演会「健康科学の最前線 メダリストの育成を目指」

 金沢学院短大専攻科(食物栄養専攻)の開設を記念し、金沢学院と北國新聞社は2006年11月4日(土)、金沢市末町の金沢学院講堂で、北國健康生きがい支援事業の金沢学院プログラム第1回講演会「健康科学の最前線 メダリストの育成を目指して」を開催しました。日本の一流選手にかかわってきた講師2人が、最先端の栄養学に基づいたカラダづくりと、勝つための体調管理について講演しました。

【主催】 金沢学院、北國新聞社
【後援】 石川県医師会、金沢市医師会、石川県歯科医師会、石川県看護協会、石川県薬剤師会、石川県栄養士会
【協賛】 富士通、あおぞら薬局、アルプ、石川県予防医学協会、北國銀行、北陸銀行、のと共栄信用金庫、JA全農いしかわ、北國がん研究振興財団

勝つための体調管理 結果を導く栄養学


講演【1】 「ワールドカップ・オリンピック代表選手の栄養サポートから」
杉浦 克己氏
立教大コミュニティ福祉学部教授・
明治製菓SAVASスポーツ&ニュートリション・ラボ所長

自然を知らない子ども

【講師】杉浦克己氏
すぎうら・かつみ 1985(昭和60)年
、明治製菓生物科学研究所入社。91(平成3)年より同社SAVASスポーツ&ニュートリション・ラボ所長としてトップアスリートの栄養アドバイザーを務める。立教大コミュニティ福祉学部教授兼務。
 スポーツ栄養学とは何か。一つは食事調査に基づく研究です。アスリートの食事を調べ、何を食べているのか、一食分のカロリーや栄養バランスはどうなのかを研究し、評価し、場合によってはアドバイスするという研究です。もう一つは運動生理・生化学的研究で、実験を通じて、運動時に何を補給するとパフォーマンスが上がるのか、疲れないのか、疲労回復が早いのかを研究します。スポーツドリンクなどのサプリメントも生み出します。
 一昨年のアテネ五輪に出場した水泳の今村元気選手は、当初、少しトレーニングがハードになると、すぐおなかを壊していました。そこで、トレーニングをしながら、炭水化物やたんぱく質などをバランスよく食べ、おなかの調子の悪いときには、腸内細菌や乳酸菌、ビフィズス菌など、おなかに良い働きをする菌を増やすオリゴ糖を飲んでもらいました。泳いでいる間にも水分やエネルギードリンクなどを補給してもらいました。練習後には、プロテイン(タンパク質)を牛乳に溶かして飲み、乳酸の分析などもして、科学的にトレーニングをした結果、ちょっとひ弱だった体も一年でたくましくなり、昨年四月の日本選手権では北島康介選手を破って優勝し、その勢いで世界水泳で銅メダルを取りました

栄養のフルコース

 スポーツ選手は、一般の人と違うことが三つあります。一つは、使われる体のエネルギー量が多いということ。しっかりと食べなければいけないということです。二つ目は、トレーニングによって筋肉、血液、骨が消耗していくということです。三つ目は、毎日練習で疲れる。試合前には緊張する。おなかを壊したり、体調が悪くなったりする人もいる。コンディションをしっかり整えるということが大事なのです。
 この三つのテーマを基に、私たちは「栄養フルコース型」の食事を考案しました。主食、おかず、野菜、果物、乳製品の五つを必ず食卓にそろえるというものです。
 主食は、ご飯です。パン、うどん、パスタなどもあります。これを必ず食べる。糖質というエネルギーのもとがあるからです。頭を働かせ、筋肉を動かすには主食が非常に大事な役割を果たしています。最近、低炭水化物ダイエットが流行っていますが、これは体の調子を悪くします。二番目におかずです。肉や豆腐、納豆、魚、卵はタンパク質や鉄分を含んでいます。筋肉や血液を作る材料になりますから、おかずで体づくりをします。三番目は野菜です。野菜にはビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。体調を整える、コンディショニングに必要な食品です。
 主食、おかず、野菜、いわゆる「定食」がそろえばエネルギーと体づくり、コンディショニングの最低限はそろいます。しかし、スポーツをやる場合には、さらに果物、特にすっぱい果物が良いです。柑橘系はビタミンCを豊富に含んでいます。100%のオレンジジュースでもいいです。
 最後に乳製品です。牛乳やヨーグルト、チーズにはタンパク質と共にカルシウムが含まれています。筋肉も作るし、骨も強くしていく働きがあります。豆腐などにもカルシウムがありますが、乳製品は非常に効率よく、しっかりと骨を作ってくれます。

五輪で活躍した食事法

 バルセロナ五輪の柔道で金メダルを取った吉田秀彦選手は、一回目の代表選考会で、減量に失敗して負けました。飲まず食わずで一週間で体重を十キロ落としたということでした。選手たちには「減量は厳しいものだから、一気に落とさなければならない。生ぬるく、ゆるゆるとやっているとハングリー精神がなくなってしまうから、本当におなかを空かせてハングリーでやるのだ」という考えがあったのです。
 そこで、今度は七キロオーバーだった状態を三十五日間かけて落としていくことにしました。朝は低脂肪の牛乳にプロテインなどを溶かして飲んで、おなかを膨らませ、食事の量は控えました。三食は必ず食べます。糖分はあるけれども脂肪の少ないお菓子も食べながら減量を進めました。彼はチョコレートが好きなので、練習が終わると板チョコ四分の一だけは許すというやり方で、全部のカロリーをうまくコントロールしていったわけです。
 アテネ五輪では、けいこ場のすぐ近くにアパートを借りて栄養士二人がお昼ご飯を作りました。柔ちゃん(谷亮子選手)は、信頼している栄養士が作る、しっかり食べても減量に影響のない食事を取っていました。サケを焼いたもの、ひじき、明太子ペーストなど、ごく普通のものです。二連覇しなければいけないというプレッシャーやアテネの暑さというストレスに打ち勝ったのは、科学的な栄養学に裏打ちされながら、おいしさや楽しさを追求した、食べ慣れた日本食だったのです。

優れたプロテイン「ホエイ」

 プロテインというたんぱく質の粉末があります。牛乳から作ったプロテインは体を大きくするのに役立つ動物性のタンパクです。大豆のプロテインは体も作るけれども、比較的脂肪を燃やすということが分かってきました。牛乳のプロテインは大きく分けて二つあります。カゼインとホエイです。カゼインは牛乳の中に80%あります。牛乳の上澄みで、白みがかった半透明の液がホエイで、ここに栄養が非常に多いのです。
 筋肉の中のエネルギー源であるグリコーゲンは、糖分を取れば回復します。糖とタンパク質を同時に補給すると、糖分だけを補給する場合よりもさらに回復します。ホエイのタンパク質はカゼインに比べ、運動しなくても肝臓のグリコーゲンを高めることができ、運動をするともっと高められるのです。
 さらに血糖値をあまり高めず、インシュリン値は高くなり、アミノ酸の吸収にも非常に優れていることが分かってきました。そういう点で、糖尿病などの生活習慣病の運動指導にも使えるのではないかと考えています。

74歳でも筋肉は肥える

 高齢者にもプロテインの摂取が良いというデータがあります。平均年齢七十四歳の十三人に十二週間ウェイトトレーニングをさせる実験で、七人にはトレーニング直後にプロテインを飲ませ、残りの六人は二時間後に飲ませる実験をしたところ、トレーニング直後に飲んだ人たちは太ももの筋肉の横断面積が増えたのです。七十四歳でも筋肉はまだ肥大するのです。これからの日本を考えた場合、絶対に運動と栄養の二つが健康づくりのキーワードになります。スポーツ栄養学をしっかりさせて、国民の健康づくりのために、運動と栄養を指導できるような形になればいいと思います。

講演【2】 「日本代表サッカーチームを支えるスポーツ医学」
河野 照茂氏
聖マリアンナ医科大スポーツ医学講座教授

現地の医療体制を確認

【講師】河野照茂氏
こうの・てるしげ 1976(昭和51)年、金大医学部医学科卒。金大講師、東京慈恵会医科大助教授などを経て、昨年より聖マリアンナ医科大スポーツ医学講座教授。治療だけでなく、障害発生防止と健康増進メニュー作成の分野でも業績多数。
 私は日本サッカー協会のスポーツ医学委員会で、二十年以上、仕事をしています。国際大会の準備は、まず、現地での医療体制と救急体制を確保しなくてはなりません。もちろんチームドクターが帯同していますので、できる範囲で治療はしますが、どうしても手に負えないことが出てきます。大きなけがや病気になった場合は、現地の病院で治療を受ける必要があります。日本にいる時のように、いつでもどこでも緊急で病院に入れると思ったら大間違いで、その国によって医療体制は違うのです。
 食事や水、生活環境も、金沢学院プログラム地域によって変わります。食事や水については、事前にきちんと調べておくことが大切です。
 我々は水に対して、それほど不安感は持っていません。皆さんもミネラルウォーターを飲むことが多くなったと思います。金沢はともかく、東京などでは水道水がまずいので、ミネラルウォーターを飲むことが多いわけです。それでも日本で水道の水を飲んだからといって、どこか調子が悪くなることはないはずです。
 ところが、海外に行くと、いわゆる生水が飲めないことがあります。現地の人は、へっちゃらで飲んでいるのです。それをまねして飲んでしまうと、日本の選手はほとんどといっていいほど、おなかを壊してしまいます。
 ただ、現地のミネラルウォーターの水質を検査すると、日本の水道法の基準に合うのは三本に一本ぐらいです。日本では大腸菌が入っていると飲料水としては不適格になるのですが、海外では入っていることがあります。だから、事前に現地の水を日本でチェックしていくわけです。
 遠征先の事前調査は、抽選会で現地を訪問したスタッフが行います。それが難しい場合は外務省や現地のサッカー協会、あるいは日本の商社などを通じて情報を入手します。
 もちろん、選手の体も事前にチェックします。一般的には、血液検査を行います、サッカー選手でいえば、ひざや足首を、時間をかけてしっかりチェックします。さらに歯科医に歯をチェックしてもらいます。スポーツをやる上で歯は非常に大事で、歯が悪い選手はパフォーマンスが落ちるといわれているのです。海外で虫歯が痛くなると、非常に厄介です。歯のことに関しては、歯科医でなければ処理できません。だから、事前にチェックして治しておくことが大切なのです。

事前検査と予防を徹底

 今年のドイツワールドカップでは、FIFA(国際サッカー連盟)から、メディカルチェックに新たな項目が追加されました。運動負荷心電図です。かつて、コンフェデレーションカップという大会で、カメルーンの選手が突然、グラウンドで倒れ、そのまま亡くなってしまいました。その後、ブラジルやヨーロッパでもサッカーの選手が試合中に突然死するという報告がありました。心臓が原因であることが多く、ならば事前に検査をしておこうということになったのです。
 海外遠征では、感染症対策、予防接種も問題になります。ナイジェリアで世界大会があった時、国際サッカー連盟から七項目について予防対策をとってくださいと連絡がありました。数年前はSARS(重症急性呼吸器症候群)という呼吸器の感染症がはやったり、今は鳥インフルエンザが問題になっています。代表チームは頻繁に海外遠征に行きますから、どこに行くかによって、どんな予防接種が必要かを確かめています。
 アンチドーピング対策も重要です。我々が気をつけなければならないのは、興奮剤です。いわゆる風邪薬です。中に入っているせき止めの薬が、興奮剤の作用を持っているのです。エフェドリンという薬です。
 そういうものがありますので、選手には風邪をひいても薬局で買った総合感冒薬を飲まないように言っています。エフェドリンが入っているので、誤って飲むとドーピング検査で陽性になってしまうのです。ですから、薬を飲むときはちゃんと医師に相談するようにと、話しています。

水なくして勝利なし

 海外では、国内にはないような環境の中で試合をせざるを得ないことがあります。たとえば、気温の違いがあります。暑い中でスポーツをすると、どうしてもパフォーマンスが落ちます。人間は汗をかいて体温を下げるのですが、逆にそれが選手のコンディションを崩すことにつながってしまうことがあります。
 汗をかくと体重が減ります。2%減ると、のどが非常に渇いてきます。3%減ると、血液の水分が少なくなって流れが悪くなってきます。4%になると運動が少し抑制され、5%になるともう、水を飲まなければ耐えられない状態になるわけです。
 また、どのくらい暑いのか、高温環境を具体的に知っておかないと対策が取れません。WBGTという環境温度を測定する機械を用いています。このWBGTによる熱中症予防のための運動指針というものがあります。この指針では、三十一度を超えると、原則、運動は中止となっています。
 水分補給をどうすればいいかということですが、気温三十一度を超える時に、二つの試合をやりました。一試合目はハーフタイムのみに水分を補給し、二試合目は十五分おきに補給しました。一試合目は体重の減少がチーム平均で2・8%、水は一リットルも飲めていませんでした。二試合目は体重減少が1・7%で、水も倍ぐらいの一・八五リットル飲めました。
 当然、体重の減少が少ない方が、選手の自覚として疲れないし、スタミナも落ちません。監督やコーチの評価も二試合目の方がよく動けているということでした。うまく水分補給をしてやれば、スタミナやパフォーマンスを落とさずに試合ができるということです。
 水分補給は、のどが渇いてからでは遅いのです。のどが渇くということは、もう脱水が始まっているのです。暑さの厳しい時には、十五分おきの水分摂取が必要でしょう。さらに、個人差があります。汗をたくさんかく選手は、練習の間だけでは水分補給が足りないから、練習の前から体の中に水を入れておくのです。実際にそうすると選手の動きがいいし、疲れにくいのです。

高地対策は「慣れ」

 最後は高地対策についてです。酸素が不足するのが高地での問題です。高地では低酸素のため、活動量が落ちます。高山病が発生することもあります。
 十七歳以下の世界大会が、南米・エクアドルのキトというところで行われました。海抜二八五〇メートルでした。情報を基に、注意すべきことを考えました。最初の二十四時間は、激しい運動をしない。湿度が低いので、水分を十分に摂取する。食欲不振になりますから、吸収のいい炭水化物を十分にとることにしました。
 それでも、着いて二日目には急性高山病という症状が出てきました。二十二人中、下痢や腹痛で練習できない選手が三人でした。食欲がない、眠れないなどの症状があった選手が十二人で、何も症状がない選手は七人でした。
 高地での大会に参加する場合、いつも高地で試合を行っているチームは強く、ブラジルでもボリビアに行くと勝てないことがあるそうです。環境が違うところで戦うには、様々な準備が必要だということです。



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