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第2回講演会「脳の活性化とこころのリフレッシュ

 北陸大学と北國新聞社は先月25日、金沢市の北國新聞会館で、北國健康生きがい支援事業・北陸大学プログラムの第2回講演会「脳の活性化とこころのリフレッシュ」を開催しました。訪れた来場者は、脳の仕組みや機能、心の病気の予防法について語る専門家の言葉に熱心に耳を傾けていました。

【主催】 北陸大学、北國新聞社
【後援】 石川県医師会、金沢市医師会、石川県歯科医師会、石川県看護協会、石川県薬剤師会、石川県栄養士会
【協賛】 富士通、あおぞら薬局、アルプ、石川県予防医学協会、北國銀行、北陸銀行、のと共栄信用金庫、JA全農いしかわ、北國がん研究振興財団

精神疾患防ぐには運動と豊かな環境が効果的

【講師】
光本 泰秀 北陸大学 薬学部 代替医療薬学教室教授
昭和三十二年大阪市生まれ。五十六年帝京大学薬学部卒業。五十八年北陸大学大学院薬学研究科修士課程修了。同年北陸大学薬学部助手。六十三年京都大学薬学博士号取得。平成二〜六年カナダ・トロント大学小児病院研究所で博士研究員、リサーチアソシエイト。帰国後の六年十二月より十七年三月まで大塚製薬研究所で脳神経疾患治療薬の創薬研究並びに新薬開発に従事した。十五〜十六年京都府立医科大学客員講師。十八年四月より北陸大学薬学部教授。日本神経学会、日本神経化学会,日本神経科学会などに所属している。

ミトコンドリアの機能低下が脳の老化に

脳は1000億個の神経細胞の集合体

 まずはじめに、脳の仕組みについて説明します。脳は、約一千億個の神経細胞が手をつなぐように並び、神経回路を構築しています。神経細胞同士が手をつないでいるといっても、その間にはシナプスと呼ばれる狭いすき間が存在しており、そのすき間で、ドパミンやノルアドレナリン、セロトニン、アセチルコリン、ヒスタミンといった神経伝達物質の受け渡しが行われているのです。
 神経伝達物質は神経細胞の末梢にあるシナプス小胞に詰まっており、神経細胞に伝わる刺激に応じてシナプスに放出されます。そして、受け取る側の細胞(神経伝達物質受容体)に結合して、情報が次の細胞へと伝えられていきます(図1)。
 脳内では、このような現象が常に繰り返されているのです。

ドパミン神経減少でパーキンソン病を発症

 このようなメカニズムになっている脳に関する病気は、大きく二つの種類に分けられます。その一つが、脳内の神経細胞が、病的な変化を起こしたり失われていく「神経変性疾患」です。代表的なものに、パーキンソン病やアルツハイマー病などが挙げられます。これらの病気の症状を抑えるための薬はあるものの、完治させる治療薬はいまだに開発されていません。
 神経変性疾患は、六十歳以上の高齢者の発症率が高いことから、"脳の老化"と何らかの関係があると言われています。
 例えばパーキンソン病は神経細胞の一種、ドパミン神経が減少することで、手足の震えや動作が緩慢になるなどの運動機能障害が生じる病気です。人のドパミン神経は誕生直後がもっとも多く、年齢とともに減っていくのですが、パーキンソン病は、ドパミン神経の数が誕生直後に比べ、20%以下に低下して発症します(図2)。
 多くの人は、高齢を迎えてもここまでドパミン神経が減ることはありません。何らかの原因で脳の老化が速まり、ドパミン神経が激減して症状が表れると推測できます。

解明のきっかけは米国の「神経毒」

 一九七〇年代から八〇年代のアメリカ西海岸で発生したある現象がドパミン神経の減少を解明するきっかけになりました。通常であれば発病しない三十歳以下の何人もの若者が、パーキンソン病になってしまったのです。
 詳しい調査の結果、彼らは自分たちで作ったヘロインを常用しており、そこから神経毒の「MPTP」が発見されました。そこで、サルに「MPTP」を投与する実験を行ったところ、脳内で「MPP+」という物質に変わり、ミトコンドリアを攻撃したのです。
 ミトコンドリアは体中の細胞内に含まれており、酸素を消費して細胞内で使われるエネルギー(ATP)を生産する役割を担っています。ミトコンドリアの機能が低下すると酸素が消費しきれず、逆に悪玉の活性酸素が増加し、ドパミン神経が減少していく現象が表れました。

コエンザイムQ10の薬剤化が進む

 それならば「ミトコンドリアを元気にすれば、ドパミン神経の減少を防ぐことができる」と仮説が立てられ、その方法として、ミトコンドリアに働く栄養成分であるコエンザイムQ10やαーリポ酸、L-カルニチンの摂取が考えられました。
 アメリカではこの分野の研究が進んでおり、パーキンソン病の未治療者八十人を対象に、十六カ月間、毎日一千二百mgのコエンザイムQ10を投与しました。二〇〇二年に発表された結果では、投与されなかった患者に比べて、パーキンソン病の進行を、44%も遅らせることに成功しました。
 これを受けて、アメリカでは現在、コエンザイムQ10の薬剤化を目指して臨床試験が大規模に展開されているところです。臨床試験の結果を見ないと断定はできませんが、コエンザイムQ10がパーキンソン病に効果的という結果が得られたことによって、脳の老化の加速を防ぐにはミトコンドリアの活性化が重要だと実証されつつあるのです。

ストレスが引き起こすさまざまな心の病

 神経変性疾患のほかに、脳にかかわる病気としてもう一つ挙げられるのが心の病、「精神疾患」です。うつ病や不安神経症、統合失調症などの病気があり、ストレスが関係していると推測されています。
 ストレスを引き起こす原因( ストレッサー) は、物理的、化学的、生物的、精神的なものに分類されます。つまり、私たちが暮らす中で都合の悪いと感じるもの全てを指しているのです。しかし、これらの中でも、いま最も社会的に問題視されているのが、精神的ストレッサーです。
 精神的ストレッサーを受けた場合、体内の抵抗力は一時的に落ちますが、すぐに回復します。この時、体内では自律神経や内分泌系、免疫系が互いに協力してストレッサーに立ち向かい、環境を安定した状態に保っています。これをホメオスタシス(生体の恒常性)と言います。
 ところが、さらに持続的なストレスが続くと、次第に抵抗力を奪われ、疲憊期と呼ばれる末期状態に移行し、なおもストレッサーを受け続けると、神経症や心身症、うつ病といった精神疾患を引き起こしてしまうのです(図3)。

抗うつ剤に研究者の注目が集まる

 このように、ストレスが原因で発症するうつ病には、治療薬として抗うつ剤が用いられます。この抗うつ剤に、「神経新生」という脳の神経細胞を再生する機能があることが近年分かり、研究者の間で大きな注目を集めています。
 ちなみに、最近まで「脳や脊髄を構成する神経細胞は、一度壊れると決して元に戻らない」と考えられてきました。これは、スペインの神経解剖学者カハール博士によって提唱された説で、一九九八年、スウェーデンのエリクソン博士とアメリカのゲージ博士によって神経細胞が再生することが確認されるまで、およそ百年間にわたって定説となっていました。

運動は長期的に継続することが大事

神経細胞の「新生」 うつ病の症状改善に

 抗うつ剤に神経新生を促進する効果が確認されたのは、抗うつ剤に関する一つのナゾが明らかになったからです。ナゾとは、患者に投与して効果が得られるまでに約二週間かかるという点です。医薬業界では、抗うつ剤が脳内の神経伝達物質の量を増やし、薬が効くまでに「なぜ、これだけの時間がかかるのか」が解明されていませんでした。
 それをアメリカの研究グループが、動物に抗うつ剤を投与する実験によって、脳内で「記憶」や「学習」に深くかかわっている海馬で、投与から二週間を経て細胞の新生が起こることを確認しました。
 抗うつ剤が海馬の歯状回に存在する神経幹細胞の増殖を促進したのです。そして、神経新生によって神経伝達物質量が増えて、うつ病の症状の改善につながることが明らかになりました。
 これを機に、海馬での神経新生がどのような環境で促進されるのかといった研究が活発化しており、効果的な予防法の確立に期待が高まっています。そして、現在では、過剰なストレスが神経新生を抑制することも分かってきています。

新しい環境に挑戦 刺激で気分転換を

 精神疾患の発症に至るまでのメカニズムが徐々に解明される中で、そうした病気を防ぐのに効果的なのではないかと私が考えるのは、「運動」と「豊かな環境」です。
 皆さんは体を動かすと気持ちいいと感じるはずです。これは、ストレスが緩和されている状態だと言えます。しかし、継続しなければ短期的な脳内の環境変化でしかありません。適度な運動を長期的に続けることが大切ですので、ぜひ心がけてください。
 また、いつも同じ生活の繰り返しでは、ついつい気分がふさぎこんでしまうことがあるでしょう。積極的に新しい環境にチャレンジして刺激を受け、気分転換を図ってください。この心がけが、きっと皆さんに豊かな環境を提供してくれるはずです。
 ?脳と心?については、飛躍的に新しい事実が分かってきています。とは言えまだまだ多くのナゾが未解明のまま残されています。ただ、心のリフレッシュこそが、脳の活性化につながり、精神疾患を予防することは間違いありません。



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