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大学プログラム

北國健康生きがい支援事業
金沢医科大学プログラム

第2回フォーラム「50歳からの健康〜その対応と予防について〜」

 全国の認知症患者が200万人近くに達している現在、その予防と治療・介護は大きな社会的関心事になっています。金沢医科大学と北國新聞社は1月13日、北國新聞会館で、北國健康生きがい支援事業・金沢医科大学プログラム「もの忘れと認知症〜その対応と予防について〜」と題したフォーラムを開催しました。血圧を下げる降圧薬がアルツハイマー病型認知症の予防に効果があるという最新の医学トピックスをはじめ、興味深い報告とアドバイスに、300人近い聴講者が熱心に耳を傾けました。

【主催】 金沢医科大学、北國新聞社
【後援】 石川県医師会、金沢市医師会、石川県歯科医師会、石川県看護協会、石川県薬剤師会、石川県栄養士会
【協賛】 富士通、あおぞら薬局、アルプ、石川県予防医学協会、北國銀行、北陸銀行、のと共栄信用金庫、JA全農いしかわ、北國がん研究振興財団

認知症の予防は生活習慣の改善が決め手


テーマ「もの忘れと認知症」
専門医による早期発見と対応
地引 逸亀(じびき いつき)氏
金沢医科大学精神神経科学(神経精神医学)教授

アルツハイマー病型と血管性

 医学の世界では、もの忘れのことを「記憶障害」または「健忘」と呼びます。認知症はこの記憶障害だけではなく、「場所や時間が分からない」「注意力や持続力が衰える」「思考による判断ができなくなる」といったように、脳全体の認知する機能が落ちてきた状態をいいます。
 良性のもの忘れと認知症の中間には、軽度認知障害というレベルがあり、認知症にも初期・中期・後期があります。この違いは臨床心理士による記憶テストで客観的に判断できます。また、長谷川式簡易知能評価スケール(図1)という簡単な検査でも調べられます。
 認知症は、大まかにアルツハイマー病型認知症と血管性認知症に分けられます。前者には、六十五歳以前に発症する早発性と、六十五歳以降に発症する晩発性があります。悪性なのは早発性で、晩発性に比べて進行が速く、症状も多彩で、遺伝的要素が強いのが特徴です。
 一方、血管性認知症は高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病によって動脈硬化が進み、血栓ができることで脳梗塞が起こり、発症するものです。
 アルツハイマー病型認知症は、昔の出来事は覚えていても、新しい出来事が覚えられません。発症してからの出来事を覚えられない前向健忘も顕著に起こります。また、過去の体験的記憶であるエピソード記憶や、知識的な記憶である意味記憶もダメージを受けます。ただし、言われたことをすぐになぞる即時記憶や、自動車の運転技術などの手続き記憶は残っています。全般的な認知機能も低下しますが、初期の段階では人格が保たれていること、運動麻痺がほとんど起こらないこともアルツハイマー病型の特徴です。

簡単ではない正確な診断

遺伝性が強いアルツハイマー

 高齢になってくると脳の中に老人斑ができます。アルツハイマー病の人は老人斑が極めて多く、しかも特殊な神経毒性を持っています。老人斑の病的な異常がアルツハイマー病の原因だと考えられています。
 この老人斑の異常は、βアミロイドタンパクというタンパクの合成に関する遺伝子異常で起こるという仮説が最も有力です。また、老人斑が酸化されると神経毒性を持ち、神経細胞を壊すという仮説もあります。さらに、アポリポタンパクE4という特殊なタンパクを合成する遺伝子を持っている人が、アルツハイマー病になりやすいという説も有力になってきています。
 家族にアルツハイマー病の人がいると、アルツハイマー病を発症する例が多いことから、遺伝性もかなり強いとされています。しかし、遺伝がないのに発症する例も多く、環境的な要因もあると考えられます。もちろん、高齢も大きな危険因子です。
 認知症には、アルツハイマー病や血管性認知症のほかに、ピック病や狂牛病(クロイツフェルトヤコブ病)などさまざまなものがあるため、診断は大変難しく、専門医でなければ正確な診断はできないと考えた方がよいでしょう。
 認知症の治療薬としては、日本ではドネペジルという薬が使われています。これには注意力や記憶力の減退の進行を予防する効果がありますが、効果は一年ほどしか続きません。
健常者の脳のCT画像 アルツハイマー病患者の脳のCT画像
 そのほか、非ステロイド性抗炎症薬、女性ホルモンのエストロゲン、ニコチン類似
体、酸化作用を抑えるビタミンEなども使われています。また、これからの治療法として老人斑を壊したり、その合成を抑制する抗βアミロイドタンパク療法も盛んに試みられてきています。
 認知症は根本的な治療が難しいため、心理・社会的治療も必要です。現在起きている問題を環境調整で解決することや、芸術療法、音楽療法、レクリエーション、作業療法など脳を刺激する刺激療法で進行を抑えることが大切なのです。
 認知症の診療は、早期発見を主目的とするもの忘れ外来や神経内科、高齢医学科、精神科、脳外科などで受けられます。認知症が疑われるときは、早めに短期入院をして、きちんとした診断や検査を受け、治療の方針を示してもらうべきだと思います。


テーマ「高齢者にみられる認知症」
アルツハイマー病に降圧薬が効果
森本 茂人(もりもと しげと)氏
金沢医科大学高齢医学(老年病学)教授(特任)

高齢者ほど高い認知症発症率

 一見、健康そうな老人もいろいろな病気を抱えており、年齢を十で割ったくらいの病気があるのが普通です。しかも、何かのきっかけで坂道を転げ落ちるようにさまざまな現象が起こります。例えば、「知的機能が衰える」「歩きにくくなる」「失禁する」「寝たきりになる」といった具合で、これらを老年性症候群と呼びます。
 認知症は高齢になるほど発症する人の割合が増え、六十代後半から七十代前半で五十人に一人、七十代後半で十三人に一人、八十代前半では七人に一人、八十五歳を超えると四人に一人が認知症になっています(図2)。日本では現在、二百万人近い認知症患者がいますが、高齢化の進行で二〇二〇年には三百万人近くに達すると予測されています。
 認知症には治療が可能なものがあります。甲状腺の機能低下によるものは甲状腺ホルモンで治療できますし、ビタミンB1やB12などの欠乏によるものはビタミンB群の補給で治ります。肝臓や腎臓の疾患、睡眠薬の影響などによる認知症は、内科疾患として治療し、頭をぶつけて頭の骨の内側に血の塊ができた場合は、脳外科で血を吸い取ることで治ります。うつ病による認知症状も、治すことができます。
 このように認知症の原因疾患はいろいろありますが、現在、全体の四分の三がアルツハイマー病型認知症と血管性認知症で占められています。最近、特に増えてきているのがアルツハイマー病型認知症です。アルツハイマー病型認知症は若い人ほど進行が早く、高齢者でも八年ほどで恍惚状態になってしまいます。

大脳の白質病変と関係が深い高血圧

 CTやMRIで脳の画像診断を行うと、アルツハイマー病型認知症は海馬という部分が委縮し、主に脳の後部の血流が低下しているのに対し、血管性認知症の場合は脳の前部の血流が低くなっています。この違いによって診断がつくわけです。 脳の画像診断で大脳が白い雲のように写る大脳白質病変があると、神経症状を伴う脳梗塞が起きる可能性が非常に高いことが知られています。認知症、うつ病、感情障害と関係が深いことが続々と報告されており、老年性症候群にも関係するといわれるようになってきました。そして、この白質病変は高血圧の人に多く見られ、高血圧との関係が極めて深いことが分かっています。
 高血圧や糖尿病は血管性認知症の重要な原因です。高血圧の人は、そうでない人より三倍、糖尿病の人も、そうでない人の二倍ほど血管性認知症になりやすいのです。アルツハイマー病についても同じ傾向がみられ、高血圧だと三〜四倍、糖尿病だと二倍もかかりやすいというデータがあります。
 ヨーロッパでの治験データによると、降圧薬であるカルシウム拮抗薬で治療していると、プラシーボ(擬薬)を飲んでいる人に比べ認知症の発症率が半分に減ります。降圧薬治療が認知症の予防に非常に効果があることが明らかになってきたのです。しかも、むしろアルツハイマー病型認知症の方に効果が高いのです。
 高血圧は年齢が高くなるほど多くなります。男性では四十代で四〇%、五十代で五〇%、六十代で六〇%、七十代で七〇%の人が高血圧です。女性は男性よりもそれ
ぞれ一〇%ほど低くなっています。
 しかし、高血圧を自覚して降圧薬を飲んでいる人は約半分にすぎず、その中でも飲んだり飲まなかったりのために十分に低下していない人が半分を占めています。血管性認知症だけでなく、アルツハイマー病型認知症にも高血圧が深くかかわっていることを認識して、予防に努めましょう。
 医学博士の金子満雄氏が認知症の初期症状のチェック項目(図3)を挙げていますので、参考にしてください。


テーマ「生活習慣にみられる認知症」
ダンスとサイクリング予防効果高い
村上 美紀(むらかみ みき)氏金沢医科大学病院
看護部看護師長

塩分と動物性脂肪を控える

 認知症は運動習慣、減量、減塩、禁煙、アルコールの制限、社交性などに関係しています。こうした生活習慣を修正していくことによって認知症は予防できるのです。
 まず食生活ですが、塩分と動物性脂肪を控えたバランスのよい食事に努めましょう。塩分の摂取は一日十グラム以下が望ましいとされています。また、野菜や魚もよいのですが、単に多く食べるのではなく、バランスのとれた食事をすることが重要です。
 年齢を重ねると味覚が鈍くなってきます。六十歳ぐらいで急激に鈍くなり、ついつい濃い味付けになりがちです。市販のレモン汁で味気なさを補う、みそ汁を飲む回数を減らす、みそ汁の具を多くして汁を減らす、といった工夫をすれば、塩分の摂取量を減らせます。
 脂肪摂取量と老年期認知症との関係を調べた調査では、脂肪摂取量が多い人は、少ない人に比べ三倍ほど血管性認知症になりやすいという結果が出ています。また、魚を多く食べている人は、あまり食べない人に比べアルツハイマー病型認知症の発症が半分以下となっています。
 トロやイワシ、サバ、ブリなどにはDHAという不飽和脂肪酸が多く含まれており、血中コレステロールを下げ、脳の働きを活発にするといわれています。
 DHA摂取の目安は一日一グラム程度、つまりトロの刺し身で二切れ、タイの刺し身で五切れほどです。火を通すとDHAが流れ出すので、刺し身の方が吸収しやすいようです。百歳を超える長寿の双子として有名だった、きんさん、ぎんさんも、お刺し身が大好きで、毎日食べていたそうです。
 認知症の予防には、高血圧、肥満、糖尿病などの生活習慣病の予防や早期発見・治療も大切です。摂取カロリーを適切に保ち、メタボリック症候群にならないようにしましょう。
 お酒と喫煙もほどほどを心掛けたいものです。人によって異なりますが、お酒の目安は、100%濃度のアルコールの量で、一日20ミリリットル(ちなみに、アルコール濃度5%、350ミリリットルの缶ビールは17・5ミリリットル)といわれています。

興味と好奇心を保つ

 適度な運動を行い、足腰を丈夫に保つことも大切です。歩行は脳の代謝と循環を活発にします。寒い季節なら屋内でのストレッチや体操でもかまいません。
 各種の身体活動とアルツハイマー病との関係を調べた統計(図4)によると、特に効果があるのがダンスとサイクリングです。いずれも、していない人に比べ発症率が約十分の一となっています。ダンスの中でも、異性と手をつなぐ社交ダンスやフォークダンスがよいようです。散歩や庭いじりをしている人の発症率も、していない人の半分ほどです。
 運動で気をつけたいのは、筋肉や腱を痛めないことです。痛みがあるときは無理をしてはいけません。また、呼吸を止めて行うと血圧が急上昇しますので、呼吸法に気をつけましょう。歩行やストレッチの際は、意識して筋肉を伸ばすことで、脳や神経が刺激されます。日常の行動全般でそれを心掛ければ、特に変わったことをしなくても予防になります。
 転倒にも気をつけたいものです。転んだ拍子に頭にダメージを受け、それが元で認知症になる例があります。転倒で骨折したために生活のリズムが単調になって、急に認知症の症状が出始める人もいます。転びにくいように、日ごろの体力づくりに努めましょう。
 運動だけでなく、興味と好奇心を持つことも認知症の予防になります。趣味、ボランティア、歌など、自分が楽しいと思えることを見つけることが大切です。
 社会活動とアルツハイマー病との関係を調べたデータでは、よく手紙を書いたり、電話をかけたりする人はアルツハイマー病にかかる確率が十分の一となっています。極めて予防効果が高いのです。そのほか、本や新聞を読むこと、退職後もやりたいことを持っていること、友人や親類の家を訪問することなども効果があります。
 さらに、よい友だち付き合いをして会話を楽しむことや、笑顔のある生活を続けることも予防につながります。


質疑応答
講演終了後、質疑応答が行われました。主な質問と回答を紹介します。(敬称略)
●認知症と睡眠薬との関連はありますか。
【地引】認知症やもの忘れを抑えるうえで睡眠は重要です。不眠がある患者は睡眠薬を飲んで眠った方がよいと思います。ただし、まれに軽い記憶障害や意識障害が起きる場合がありますので、副作用に注意しながら、自分に合った睡眠薬を使うことが必要です。
●事故やトラブルによる精神的ショックが認知症につながることはありますか。
【地引】精神的なストレスが原因で卒中発作を起こすことがよくありますので、血管性認知症との関連はとても深いと思います。アルツハイマー病についても、心理的なストレスが引き金になり得るといわれています。
●「頭の体操」は認知症予防に効果がありますか
【森本】もちろん予防になります。ただし、家に閉じこもることが認知症の一番の促進要因ですので、積極的に外へ出て、ちょっとおすまししながら話すような社会活動が、最もよい頭の体操になるのではないかと思います。
●週に2回、2時間の社交ダンスをしていますが、妥当でしょうか。
【村上】どの程度の時間が適当なのかは分かりませんが、社交ダンスは認知症予防効果が高いことが知られていますので、続けるべきだと思います。
【森本】高齢者の場合、運動による突然死の危険もありますので、自分の体力や体調に合わせて、弾力的に量や時間を決めることが基本ではないでしょうか。


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