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金沢医科大学プログラム

第2回フォーラム「『脳卒中』を治す」

 北國健康生きがい支援事業の金沢医科大学プログラム2007年度第2回フォーラム「『脳卒中』を治す」は12月8日、金沢市の北國新聞会館で開催された。フォーラムでは、同大学病院の4人の教授が、それぞれの立場から脳卒中の症状や診断法、手術法、リハビリテーション療法について紹介し、「病気の克服には早期発見・早期治療が大切」と訴えた。

【主催】 金沢医科大学、北國新聞社
【後援】 石川県、石川県医師会、金沢市医師会、石川県薬剤師会、石川県栄養士会、石川県看護協会
【協賛】 あおぞら薬局、アルプ、石川県予防医学協会、北國銀行、北陸銀行、みずほ銀行金沢支店、住友信託銀行金沢支店、三井アセット信託銀行、日本生命保険相互会社金沢支社、明治安田生命保険相互会社金沢支社

早期発見・治療が社会復帰へのカギ


「脳卒中ーこんな症状見逃すなー」
松井 真(まつい まこと)氏
(金沢医科大学病院 神経内科教授)

「急に」「片側」が発症のサイン

患者の27・7%が寝たきりに

 日本人の三大死因として知られているのが、「がん」「心臓病」「脳卒中」です。脳卒中は長年、日本人の死因第一位でしたが、一九八五年以降、第三位のまま推移しています。死亡率が下がったのは、脳出血による死者が減ったからです。生活習慣病が広く知られるようになり、塩分を控えるなど生活を見直す人が増えました。
 医療技術の進歩も手伝って死に至るケースが少なくなった反面、脳卒中は寝たきりの最大の原因なのです。発症した人の二七・七%が寝たきりになっていることからも、予防が何より大切です。

動脈硬化が引き金に

 脳卒中は、脳内の血管が詰まる「脳梗塞」と、血管が破れる「脳出血」の二つに分けられます。発症の引き金となる危険因子は、「高血圧」「糖尿病」「高脂血症」が挙げられます。脳梗塞では、動脈硬化が発症の主な要因であるため、高血圧、糖尿病、高脂血症のほか、「喫煙」も発症の危険度を高めます。
 脳梗塞で血管が詰まるパターンには「血栓症」と「塞栓症」があります。血栓症は血管の内壁にコレステロールや中性脂肪がたまり、ゆっくりと血管が詰まっていきます。そのため、身体の異変を感じてから症状が悪化するまでは、二時間〜半日かかります。対して塞栓症は、心臓でできた大きな血栓の塊がはがれ落ち、血の流れに乗って脳に到達すると、血管を突如詰まらせます。発症から十〜三十分の間に容態が急変するという特徴があります。

 
体の異常を感じたら病院へ

 脳梗塞だと疑われる患者は、即座に病院へ搬送してください。血管が詰まってから三時間以内ならば、血栓を溶かす薬剤を投与する「血栓溶解療法」を行えるからです。この治療を施すには、診察や画像診断検査する時間を考えると、症状が現れてから一時間以内に病院へ到着していなければなりません。
 そこで、早期治療を開始するには、「普段の体調と何かが違う」という発症のサインを、素早くキャッチしてほしいのです。脳卒中かどうかを見極めるポイントに、「急に」「片側」という二つの言葉がカギになります。例えば、両目の眼球が自分の意志とは関係なく右側に寄ってしまった場合、右脳に脳卒中を発症している可能性があります。
 また、急に起こったしびれは、我慢しないでください。しびれとは、力が抜けたり、感覚が鈍ることを指します。片側の手足に力が入らなくなったり、物を手でつかんだ感覚が分からなくなったら要注意です。

 
投薬治療ができる脳梗塞

 場所によっては、大きな血の塊を取り出して圧迫を取り除く手術をすることがありますが、多くの場合は、血圧をうまく調節しながら回復するのを待つしか手だてがない脳出血に比べ、脳梗塞は投薬治療も選択できます。血栓を溶かす薬のほか、脳を保護する薬、脳の腫れを抑える薬、血栓の塊をできにくくする薬などがあります。ただし、発症から投薬できるまでの時間が制限されている薬もあります。血栓を溶かす薬は三時間、脳を保護する薬は四十八時間でなければ使用できませんので、脳梗塞が疑われたらできるだけ早く、専門医を受診してください。

 

「画像診断ー早期診断の切札ー」
利波 久雄(となみ ひさお)
(金沢医科大学病院 放射線科教授)

画像診断で適切な治療を

 
出血か梗塞かを見極める

 脳卒中の治療は一刻を争います。後遺症を残さずに社会復帰するためには、早期診断、早期治療がとても大切なのです。発症後は、診断と治療ができる病院へ迅速に搬送し、画像検査を行って正しい診断を受けた上で、少しでも早く治療、リハビリテーションを始めてください。
 脳卒中が疑われる患者に対する病院での診断の進め方は、病歴などを問診してから診察し、血液検査や心電図の結果を見た上で、画像診断検査を実施します。この画像から症状が脳梗塞なのか、脳出血なのか、くも膜下出血なのか、あるいはその他の疾患であるのかを判断するわけです。

 
CTとMRI検査を併用

 脳卒中で用いられる画像診断検査には、CT(コンピューター断層診断装置)とMRI(磁気共鳴診断装置)の二つの検査法があります。
 それぞれの検査には得手、不得手があります。CT検査は脳出血、くも膜下出血に、MRI検査は脳梗塞の早期診断をする上で優れており、これらを組み合わせて正しい診断を下します。
 MRI検査の中でも拡散強調画像と呼ばれる撮影方法が、脳梗塞の早期診断に有効です。発症から一時間以内のCT画像には梗塞の病巣が見られないのに対し、拡散強調画像には、白く写った病巣が確認できます。

 
白く写し出される病巣

 脳卒中が疑われる患者への画像診断は、次のように進みます。最初に行うのはCT検査です。脳に出血があれば、CTの画像上では白く写し出されます。CT検査で病巣が確認できなかった場合は脳梗塞だと考え、引き続きMRI検査を実施します。ここでは、拡散強調画像を撮影するのと同時に、血管が詰まったことで脳内の血流が低下していないか、脳血流画像で確認します。
 脳梗塞では、いかに梗塞部分の拡大を食い止めるかが勝負となります。発症から三時間以内に血栓を溶かす薬剤を投与する「血栓溶解療法」を施し、詰まった血管への血流を再び取り戻すことができれば、梗塞が起こった病巣の周囲にある脳細胞を救うことができます。
 発症から半日以上が経過すると、脳細胞は死滅してしまい、回復は期待できません。その場合、脳細胞の保護や再発を防ぐ治療が主体となります。

 
脳ドックの受診を定期的に

 血栓溶解療法にも問題点があり、副作用として脳出血を引き起こすことがあります。統計では、この療法を行った三・九%の人に出血が起こります。とはいえ、治療後の脳内の血流が回復する効果(図1)がはっきり現れるなど、副作用のリスクに挑戦するだけの価値があります。
 しかし、誰でも血栓溶解療法が受けられるわけではなく、いくつかの条件があります。(1)発症から三時間以内(2)症状が軽度(3)高血圧ではない(4)脳出血が見られない(5)病巣が小さいーという条件をクリアする必要があります。
 最後に脳卒中を予防するには、定期的に脳ドックを受診されることをお勧めします。自覚症状のない初期の脳卒中、脳動脈瘤、動脈硬化などの病を早期発見できます。金沢医科大学病院では日帰り脳ドックを行っていますので、一度体験してみてください。

 

「脳卒中ー手術で治すー」
飯塚 秀明(いいづか ひであき)
(金沢医科大学病院 脳神経外科教授)

負担が少ない脳血管内手術

 
病名で異なる手術目的

 脳卒中とは、脳血管の障害で引き起こされる脳梗塞や脳内出血、くも膜下出血などの総称です。治療には手術を用いることが多く、症状によってその目的は異なります。くも膜下出血、脳内出血では救命のため、脳梗塞では重症化と発症、再発の予防のために手術が行われます。
 脳は外側から、硬膜、くも膜、軟膜という三層の膜に覆われています。くも膜下出血とは、くも膜と軟膜の間を通る脳動脈にできた動脈瘤が破裂し、出血することを言います。脳内での出血ではないため、くも膜下出血は後遺症を残さずに完治できる可能性がある病気です。

 
死に至る再出血

 脳卒中の一割を占めるのがくも膜下出血で、働き盛りの壮年期に発症する人が多い病気です。発症すると、一週間以内に死亡する人が三割、後遺症が残ったり、寝たきりになる人は四割に上りますが、社会復帰できる人も三割います。
 片方のまぶたが下がってきたり、物が二重に見えたら、「脳動脈に動脈瘤がある」という警告だと思ってください。
 動脈瘤が破裂すると、ハンマーで殴られたような激しい頭痛が襲います。出血が少ない場合は、一〜二日で頭痛は収まります。ただし、二十四時間内に再出血する危険性があり、再出血は死に至るケースが多いのです。
 そこで、手術では「再出血防止」を最優先します。動脈瘤の根元を小さなクリップで挟むクリッピング手術を行うことで、動脈瘤への血の流れを遮断します。

 
脳細胞の死滅を予防

 脳梗塞を手術で治すことはできません。なぜなら、血液が流れなくなって死滅した脳細胞は二度とよみがえらないからです。そのため、手術は発症の予防や再発防止、症状の悪化を食い止めるために行います。
 例えば、頚動脈に血のかたまりができると、一時的に片方の目はカーテンが下りたように見えなくなります。これは脳梗塞の前兆ですので、血管が完全にふさがれる前に予防のための手術を行えば、発症を未然に防げます。脳の血流を改善する代表的な手術には、頚動脈の血栓内膜剥離術と、バイパス手術があります。

血管から脳梗塞を治療

 近年まで主流だった開頭手術は頭蓋骨を開くため、患者の身体的な負担は大きかったと言えます。そこで、十年前から血管の中から治療する「脳血管内治療」が考案され、脚光を集めるようになりました。
 脳血管内手術では、針金のように細いカテーテルを血管に挿入します。カテーテルの先端から血栓を溶かす薬剤を投与するほか、バルーンを膨らませて血管を拡張したり(図2)、形状記憶機能を備えたコイルで動脈瘤内部を詰めてしまうなど、一人ひとりの症状に合わせた手術を行います。
 このように治療技術は日進月歩の進化を遂げており、正しい診断で適切な手術を受けることが、社会復帰への近道です。

 

「早期リハビリテーションーよりよい生活を目指してー」
山口 昌夫(やまぐち まさお)
(金沢医科大学病院 リハビリテーション医学科教授)

リハビリで身体機能を回復

 
失った機能を補う脳細胞

 人間は脳の命令によって活動しています。そのため、脳細胞が破壊されてしまう脳卒中では、たとえ命が助かったとしても、日常生活に支障が出る麻痺などの障害が身体に残る場合があります。このような障害を少しでも回復させ、社会復帰を目指すのが、「リハビリテーション」です。
 一度壊れてしまった脳細胞はよみがえりません。しかし、障害に合わせたリハビリによって、失われた脳細胞の働きを健全な脳細胞が補うようになり、身体機能が回復していくわけです。リハビリに取り組んだ人と、取り組まなかった人では、機能回復に大きな差が生じます。

 
安静は「寝たきり」の一因

 脳卒中の患者は以前、絶対安静が必要だとされてきました。しかし最近では、症状が落ち着いた段階で早期リハビリを開始することが重要視されています。なぜ早期リハビリが大切なのかと言うと、ベッドでの安静は、「寝たきり」につながりかねないからです。
 人は寝かせきりにすると、一週間で筋力が一〇〜二〇%低下します。心機能の低下や知的障害、骨粗鬆症など「廃用症候群」と呼ばれる合併症の引き金ともなり、寝たきりになってしまう人が多いのです。ですから、ベッドで安静にしている期間はできるだけ短くし、歩行訓練などに取り組んでもらうことで、徐々に患者の自立を促します。

 
明確な目標に向かって訓練

 リハビリを行う上で大切なことが二つあります。第一に、動作可能な部位を積極的に動かすことです。脳梗塞によって右半身に障害が残った患者を例にすれば、自由に動く左手は箸などを使って動かすようにしてください。ただし、患者は体が動かないという事実をなかなか受け入れられず、精神的に落ち込んでいます。やる気を起こさせるには、周囲の医療関係者がしっかりとフォローしなければなりません。
 第二に、動かない部位は機能回復訓練を行うことです。患者が訓練を行う際には「後遺症を治して自宅に戻りたい」という明確な目標を持ってもらうことが、リハビリの回復を早めることにつながります。

「介護不要」まで回復を

 リハビリの訓練には様々な種類があります(図3)。具体的なリハビリの方法としては、まず理学療法が挙げられます。「ベッドから起き上がって座る」という訓練をこなせるようになれば、車いすに乗れるようになるため、一人での排泄が可能となります。また、立つだけでも、麻痺している側の筋肉に刺激を与えるため、体を動かすきっかけ作りとして効果的です。
 作業療法では、衣服の着替えや食事といった簡単な作業が訓練になります。このほか、言語聴覚療法では、「聞く」「話す」といったコミュニケーション力を復活させます。また、装具療法では、足や膝の関節に器具を装着して歩き、自力歩行を促します。
 リハビリには、医師のほか、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などの専門家が当たります。退院時には、介護の必要がないほど回復してもらうことが、リハビリに携わる専門家たちの願いなのです。

質疑応答
講演終了後、質疑応答が行われ、四人の教授が質問に答えました。主な質問内容をご紹介します。

質問 昨年、くも膜下出血を発症し、手術を受けました。担当医からは再発はないと言われていますが、五年後、十年後に動脈瘤ができることはあるのでしょうか。また、遺伝しますか。
飯塚くも膜下出血の場合、脳内の血管をすべて調べ、すべての動脈瘤を治療しますので、すぐに再発することはありません。二十代、三十代でくも膜下出血を患ったときには、何十年か後に再発したケースもありますので、注意が必要です。また、この病気は遺伝することはありませんが、親族のなかに脳疾患を患った人がいる場合は脳ドックの受診を勧めています。

質問 朝、目が覚めると最高血圧が一七八、最低血圧が八七で頭痛もします。昼ごろになると一三五、六五まで落ち着いてきますが、脳卒中の心配はないでしょうか。
松井そのまま放っておいては、いずれ脳卒中になる可能性があります。血圧をコントロールする薬を飲む必要がありますので、まずは内科医に相談し、すぐに治療を開始してください。

質問 目の前が突然、霧がかかったように見づらくなり、しばらくすると元に戻りました。脳卒中の予兆ではないでしょうか。
飯塚目の病気と脳卒中の両方の可能性があります。頭につながる血管を調べてみる必要があるかもしれません。まずは眼科を受診して、原因が分からなければ専門医に相談してください。

質問 母親が右脳梗塞と診断され、今は病院でリハビリを行っています。認知症の症状も進んでいるようなのですが、退院後、家族はどのように母親を見守っていくべきなのでしょうか。
山口脳卒中に起因する認知症は、日常生活に戻ると症状が好転することがあります。家族との会話も大切です。自宅に母親が戻ってきたときに暮らしやすいよう、バリアフリーにするなど住居環境を整えてあげてください。


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