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“医・食・寿を学ぶ”「PET(ペット)診療最前線〜がんと認知症〜」

 北國健康生きがい支援事業の金沢大学プログラム“医・食・寿を学ぶ”「PET(ペット)診療最前線〜がんと認知症〜」は8月19日、金沢市香林坊の北國会館10階ホールで開かれ、がんや認知症の早期発見・治療につながる最新の検査法の講演に、来場者はメモを取りながら熱心に耳を傾けました。

【主催】 金沢大学、北國新聞社
【協賛】 あおぞら薬局、アルプ、北陸銀行、みずほ銀行金沢支店、住友信託銀行金沢支店、三井アセット信託銀行、日本生命保険相互会社金沢支社、明治安田生命保険相互会社金沢支社

体の負担を最小限に抑え 精度の高い診断を可能に


「がん診療、PETあるなしで大違い」

一度の検査で隅々をチェック
全身のがんを一網打尽

絹谷清剛氏(きぬや せいご)
金沢大学大学院医学系研究科教授
〈バイオトレーサ診療学〉
がんの有無や部位を特定

 人間の細胞は、ブドウ糖によって活動しています。そして、がん細胞は、正常の細胞に比べて増殖スピードが速く、ブドウ糖の消費が三〜八倍も多くなります。PET(陽電子放射断層撮影法)は、がん細胞のこのような性質を利用した新しい検査法です。
 PET検査ではまず、ブドウ糖に似た構造を持ち、ごく微量の放射線を出す薬剤を注射します。がん細胞は薬剤をブドウ糖と勘違いし、どんどん取り込んでいきます。薬剤投与後、しばらくしてからPETカメラで撮影すると、放射線が目印となって、がん細胞の有無や、位置が特定できるわけです。また、薬剤が取り込まれるほど強い反応が見られ、がんが進行していると判断できます。

早期発見で根治が可能に

 従来、がん検診に利用されてきた?線CTやMRI(磁気共鳴画像)は「形をみる」検査であったのに対し、PETは「細胞の働きをみる」検査です。
 これまで、X線画像に腫瘍のような形の影が写っていたとしても、がんと特定することはできませんでした。形の情報だけでは疑いの域を出ず、正確な病名の診断までは下せないのです。さらに、臓器に隠れてしまい、X線CTやMRIでは病巣を確認できないケースもあります。
 細胞の働きで診断するPETならば、薬剤に反応した部分にがん細胞が存在すると推測できます。また、X線CTやMRIでは分かりにくい小さな腫瘍であっても、高い精度でがんの有無を診断でき、早期発見につながります。
 早期がんであれば、根治の確率が高まります。しかし、経験を積んだ医師でも、X線画像による診断だけでは、初期段階のがんを見落とす可能性があります。この鼻咽腔がんの患者さんが手術前に受けたX線CTでは、両方の首に小さいリンパ節が見られます。X線CTでは転移なしとされる状態ですが、PETではこれらの小さいリンパ節に強いブドウ糖の集積が見られ、転移リンパ節であることが判明し、これにより手術範囲が正確に把握されました。=図1=
 皆さんは、それではこのX線CTの診断は誤診かと思われるかもしれませんが、早期であればあるほど、形だけでの診断は難しいのです。医療現場は日々、シビアな判断を迫られているということを理解いただければと思います。

転移場所の確認にも威力

 PETの優れた点は他にもあります。一度に全身の検査を行えることです。
 全身検査を行うことで、がんが予想もしない部位に転移しているのを発見することもでき、がんの広がりや再発をいち早く把握することができます。このような情報はその患者さんの治療方針に大きく影響を与えます。
 発見に加えて、がん治療の効果を確かめるのにも利用します。化学療法や放射線療法を行った後、PET検査でがんの反応が消えていれば、治療効果が上がっていると判断できるのです。

複数の検査でより正確に

 もっとも、PETといえども万能ではなく、すべてのがんを見つけられるわけではありません。
 投与した薬剤が尿として排出されるため、腎臓や尿管、膀胱などはがんの判定が困難です。また、一センチ以下の腫瘍は見つからないことがあります。前立腺がんの場合は、PETよりもX線CT、MRIの方が正確な診断を行えることがあります。
 ですから、PETだけを信じるのではなく、X線CT、MRI、超音波、内視鏡などの検査を組み合わせることが重要です。そうすれば、より信頼できる診断結果を得ることができます。
 また、すべての検査に言えることは、画像診断などで腫瘍が見つかったとしても、がんであるとは断定できません。直接、その部位の細胞を採取し、がん細胞かどうかを調べる、組織検査が必要となります。

初めてでも安心な検査

 ところで、初めてPET検査を受けられる方は、どのような検査か心配されるかもしれません。
 しかし、検査は簡単で、胃カメラやバリウムを飲むようなつらさはなく、注射一本を打つだけなので体の負担も少なくて済みます。準備から検査終了までは約三時間、実際の検査は三十分ほどで終わります。=図2=
 X線CTで全身を検査することを考えれば、PETの放射線量は、わずかなものです。私たちが日常生活で浴びる宇宙からの放射線量は、二・四ミリシーベルトです。対してPETは一回の全身検査で二・二ミリシーベルトであり、この点からも安心して受診することができます。
 金沢大学附属病院では今年八月、PETとCT検査を同時に行える「PET―CT装置」を導入し、検査体制の充実を図りました。このように医療機器は日進月歩、進化し続けており、がんという病気が恐いものではなくなるのも、それほど遠い日ではないでしょう。


「PETで?見える?脳・心疾患」

発症前の兆候段階でキャッチ
認知症の早期診断に道
松成一朗氏(まつなり いちろう)
(財先端医学薬学研究センター臨床研究開発部長)

ブドウ糖代謝の低下に着目

 欧米では「がんを疑ったら、まずPET検査を」というほど、この検査が定着しています。近年、日本でもPETを導入する病院が増えてきました。がん検査でその名を知られるようになったPETですが、実は脳疾患や心疾患の診断にも有効だということは、あまり知られていません。
 がん検査では、ブドウ糖に似たPET薬剤が集中する場所にがん細胞があると推定するのに対し、認知症や狭心症では、脳や心臓にPET薬剤が集まらないことが病気と診断するポイントになります。

脳細胞が死ぬ前に治療を

 認知症の発症率は、六十五歳を超えたころから次第に増えはじめ、八十五歳以上では約三〇%に達します。製薬会社では、認知症治療薬の開発に力を注いでおり、将来的には治る病気になるかもしれません。ただ、どれだけ効く薬が開発されたとしても、病気が進行して脳細胞が死滅してしまうと、回復は見込めません。ですから、早期発見、早期治療が大切なのです。
 認知症は、「アルツハイマー型」、「脳血管性型」、「レビー小体病・その他」の三つに分類されます。そのうち、全体の半分を占めるのが、アルツハイマー型です。アルツハイマー病の脳の内部では、記憶をつかさどる海馬が萎縮し、血流が減少します。また、脳の後部帯状回と頭頂側頭葉の部分のブドウ糖代謝が下がることが分かっています。=図1=

MRIより正確なPET

PETの可能性を語る絹谷教授(右)と松成部長
 アルツハイマー病の診断には、PETとMRI(磁気共鳴画像)の検査が有効です。PETではブドウ糖代謝の低下、MRIでは海馬の萎縮が確認できます。
 二つの検査を比較すると、PETでは九五%が正しく診断できたのに対し、MRIは八五%と下がります。
 このような差が生まれるのは、海馬が萎縮していない状態でも、ブドウ糖代謝の低下が始まっているからです。
 つまり、PETならば、アルツハイマー病の兆候を、記憶障害などの症状が現れる前、もしくは初期段階でとらえることができ、早期治療を可能にします。
 また、アルツハイマー病は、発症する十年以上前から病気の進行が始まっています。研究の結果、患者の脳内には、βアミロイド蛋白、タウ蛋白が蓄積されていくことが分かりました。これらの物質が神経細胞に影響を与え、脳細胞を死滅させていくと考えられています。
 最新の診断法では、二つの物質が脳内に蓄積されている状況をPETで確認できます。この研究がさらに進めば、発症する五〜十年前には、病気の兆候をつかめるのではないかと期待が高まっています。

病気の最適な治療を選択

 認知症を発症する危険因子は、高齢、女性(男性の一・五倍)、遺伝、生活習慣病(高血圧、高脂血症、糖尿病)の四つがあります。このうち、生活習慣病だけは、本人の心がけ次第で改善することができますので、日ごろから規則正しい生活を送ってください。これから説明する心疾患の危険因子も、認知症の生活習慣病と同じです。
 心疾患は、生活習慣病によって血管が動脈硬化を起こすことで血流が悪くなり、ブドウ糖の代謝と心機能が低下します。進行すると、心筋の交感神経にも異常をきたし、狭心症や心筋梗塞、さらには心不全など命に係わる恐ろしい病です。
 治療法としては、薬剤投与、バイパス手術、ペースメーカーによる再同期療法、心臓移植などがあります。心筋梗塞の患者を例に挙げれば、心臓を動かす心筋が生きているか、死んでいるかによって、治療法は変わります。PET検査では、生きている心筋はきれいなドーナツ状の輪になって浮かび上がります。逆に死んでいると輪が欠けて見えます。=図2=
 生きている場合は、バイパス手術やペースメーカーによる再同期療法、死んでいる場合は薬剤投与や心臓移植といったように、PETで心筋の状態を確認した後に治療方針を決めることができます。

危険な不整脈が死を招く

 これまで受けた定期健診で、心電図の検査の際に、「不整脈があります」と言われた経験がある方は多いのではないでしょうか。ほとんどの不整脈は心配しなくても大丈夫なものですが、突然死を引き起こす不整脈もあります。
 危険な不整脈は、植え込み式除細動器(ICD)の電気ショック療法で対処でき、心不全全体の死亡率を三〇%減らすことができます。
 不整脈は心筋の交感神経と密接な関係があることが分かっています。PETで心筋の交感神経の異常を調べることで、ICDの必要な人を把握できるのではないか、現在、研究が進んでいます。


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