疲れ、のどの渇き、頻尿がサイン
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【講師】水野 肇(みずの はじめ)氏 1948(昭和23)年、大阪外大卒。同年に山陽新聞社に入り、60(同35)年には企画・特集「癌シリーズ」で、新聞協会賞を受賞した。62(同37)年、医事評論家として独立し、社会保険審議会や医療審議会などの委員を歴任した。 |
私が糖尿病と診断されたのは、今から二十八年前のことです。
それ以前はまったくの疲れ知らずだったのが、地方の講演会をこなして帰ってくるたび、ひどい疲労感に襲われるようになりました。そこで、医師に診てもらったところ、血糖値が基準値を超えていたのです。
以来、毎日の生活で食事に気を付けたり、適度な運動を心がけるようになりました。
糖尿病とは、私たちの体にとってエネルギー源となるブドウ糖を細胞に取り込む際に必要なインシュリンというホルモンが不足する病気です。
主な症状としては、私がそうだったように疲れやすくなるほか、のどが渇いたり、尿の量や回数が多くなります。
放っておくと、失明の恐れのある網膜症や、腎臓の機能が低下する腎症、しびれや麻痺を引き起こす神経障害などの合併症を引き起こします。
私の場合、足の神経が鈍感になって、裸足でいるのに、足が重くなり、靴を履いているような感覚になることもありました。
糖尿病には大きく分けて、I型とII型、二つのタイプがあります。
I型はインシュリンの生産工場であるすい臓の細胞が破壊されるために発病します。子どもや若い人に多く、患者数は全体の五%ほどです。
II型は分泌されるインシュリンの減少やその機能低下が原因です。多くは四十歳以上で発病し、糖尿病患者の大部分、約95%を占めます。I型と異なり、食生活や運動不足などの生活習慣が大きく関係しています。
糖尿病にかかると、体内に吸収されず血液中にたまったブドウ糖が血管に障害をもたらし、それが合併症の原因となります。
糖尿病は昔からある病気ですが、これまでは、網膜や腎臓に合併症が多発することから、体内の細い血管にのみ、悪影響を及ぼすと考えられていました。
ところが最近では、細い血管だけでなく、太い血管にも影響を与えることが分かってきました。
おととし、岡山県の病院が一万件に及ぶ戦後の心臓外科手術のカルテを調査したところ、手術を受けた患者の約六七%が糖尿病だったそうです。
つまり、糖尿病は太い血管にも障害をもたらし、心臓病などの原因にもなりうる怖い病気なのです。
厚生労働省が二〇〇二年に行った調査では、約一六二〇万人が糖尿病、あるいはその予備軍という結果が出ました。
実に国民の一割以上という数字で、五年前に比べて約二五〇万人も増えています。
糖尿病かどうかは、空腹時の血液の血糖値を測って診断します。
値が一二六mg/dl以上なら糖尿病の疑いが強く、七〇mg/dl以上一一〇mg/dl未満なら正常となります。
一一〇から一二五の数値ならば、境界型と呼ばれ、いわゆる糖尿病予備軍です。
予備軍に属する人でも、何の改善策も取らなければ、数年以内に、四人に一人の割合で、糖尿病に移行します。予備軍の状態のままでも合併症は進行してしまいます。
また、最近になって、通常の検査で発見しにくい「かくれ糖尿病」の存在が新たに分かってきました。
かくれ糖尿病とは、空腹時の血糖値は正常なのに、食後の血糖値が基準値より高いケースです。
一般的に健康診断では、空腹時に検査を受けるため、見逃されやすいというわけです。
糖尿病やその予備軍がこのように増加する背景には、食べ過ぎや運動不足などの理由のほかに、遺伝的な要因があると言われています。
今の生活からは想像もつきませんが、人類の歴史は、飢餓との戦いの歴史とも言えます。その戦いで人類が獲得したのが「節約遺伝子」です。
節約遺伝子の働きによって、私たちの体はわずかな食事でも、効率的にエネルギーを確保できるようになっています。ところが、その働きは、飽食の時代ではあだとなります。
東洋人は欧米人と比べ、節約遺伝子を多く持っています。にもかかわらず、カロリーの高い欧米の食文化が浸透したため、本来、生きるためには優れた機能であるはずの節約遺伝子が糖尿病を助長してしまっているのです。
糖尿病患者が増えれば、当然治療のための医療費も増えます。
日本の国民医療費は平成十六年度で約三十二兆円かかっており、年々増加する傾向にあります。
そのうち、糖尿病の治療に使われている金額は約二兆円に上ります。
糖尿病の治療費の内訳は、診察代や薬代などに約一兆二千億円、人工透析に約八千億円となっています。
ただし、先ほども述べたように糖尿病は心臓病をはじめ、さまざまな病気の原因となります。それらの治療費を含めれば、五兆円にも、六兆円にもなるのではないでしょうか。
医療費の削減が叫ばれる中、高齢者が長期に入院する療養病床を大幅に削減したり、所得が現役並みにある七十歳以上の人が医療機関で払う自己負担を二割から三割に上げるなど、医療制度の見直しが行われています。
しかし、糖尿病の対策をしっかりとやって、その患者を減らすだけでも、多くの医療費を減らせるのです。
残念ながら、現在、糖尿病を根本的に治す方法はありません。
一度発病すると、病状が軽い場合は、食事と運動に気をつけなければいけませんし、病状が重い場合は、インシュリンの投与や人工透析をしながら、根気よく付き合っていくしかありません。
だからこそ予防がとても重要なのです。
予防の第一歩は、自分の血糖値を知ることです。血糖値が高ければ、生活習慣を見直すきっかけになります。
そのためにも、三十五歳以上の国民全員が年に一回、検査を受けるよう心がけてほしいと思います。
「どこも悪くないのに病院には行きにくい」という人もいらっしゃるでしょう。その気持ちもよく分かりますが、そんなに時間がかかるわけでもありませんので、面倒がらずに足を運んでください。
国を挙げての対策としては「フィンランド方式」が注目されています。
フィンランドでは、糖尿病予備軍の人を対象に、運動と食事について指導したところ糖尿病の発病率を下げることに成功しました。
この結果を受けて、国民全体の予防への関心が高まったのです。
日本でも、患者の増加に歯止めをかけるため、厚生労働省がフィンランド方式を踏襲して、予備軍に向けた指導を強化していくとしており、その成果に期待したいと思います。
糖尿病はだれもがかかる可能性のある病気です。
それだけに普段から、栄養のバランスを考えた食事を取り、運動をして余分なカロリーを消費することが大切です。
自覚症状がなくても年に一回検査を受けておくことが早期発見につながります。病気について知識を持つことも大切でしょう。
ただ、糖尿病と診断されたとしても、自分は「病人だ。健康ではない」と暗くなる必要はありません。
WHO(世界保健機関)では、「健康とは、何事に対しても前向きの姿勢で取り組めるような精神および肉体的、さらに社会的適応状態をいう」と定義しています。
つまり、単に病気ではないというだけでなく、心に深い悩みがあったり、社会とうまく調和できない人も健康ではないというわけです。
しかし、この定義をすべて満たした状態の健康な人は一体どれぐらいいるのでしょうか。
私は、たとえ、がんを患って余命いくばくもない人でも、本人が「今日は気分がいい」と感じられる日があるならば、その日に限っては健康と考えていいと思っています。
私自身、糖尿病と診断されてから二十八年、一日に摂取するカロリーを抑えたり、決まった時間に食事をとるなど、食事療法に取り組んできました。
毎日食事のことを気にしていますから、今ではレストランに行けば、メニューを見るだけで、どの料理がどのくらいカロリーがあるのか、大体分かるようになってしまったほどです。
また、炭水化物を摂取する際、私の場合は、パンやうどんよりもご飯を食べたときに、一番血糖値が上がりやすい体質であるということも分かりました。一方で、毎日の生活にウォーキングなどの運動を取り入れました。そうやって病気をコントロールしてきたのです。
糖尿病になっていなかったら、もっと楽しい人生だったと考えることもあります。もちろん、糖尿病を防ぐことが第一なのは言うまでもありません。しかし、仮に糖尿病だと診断されても、悲観することなく、うまく付き合いながら、前向きな気持ちで楽しい人生を送ってほしいと思います。
| 糖尿病の症状チェック |
□肌がかゆい、かさつく |
| □このごろ太ってきた |
□下腹部がかゆい |
| □食べても食べてもやせる |
□手足がしびれたり、ピリピリする |
| □とてものどがかわく |
□視力が落ちた気がする |
□食欲がありすぎていくらでも食べられる
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□立ちくらみがある |
| □おしっこの回数が増えて、量も多い |
□甘いものが急にほしくなる |
| □尿のにおいが気になる |
□ちょっとしたやけどや傷の痛みを感じない |
| □全身がだるい |
□おしっこが出にくく、出ても残った感じがする |
| □疲れやすい |
□足がむくむ、重くなる |
出典:厚生労働省ホームページ |