講演1「小児がんを治す」
講師 犀川 太(さいかわ・ゆたか)氏(金沢医科大学病院 小児科教授)
白血病は専門医も早期発見が難しい
十五歳以下の年齢で発症する腫瘍性疾患を小児がんと言います。肺や胃、大腸に多い成人のがんと異なり、血液やリンパ節、肝臓、腎臓などで好発する点が特徴です。
「血液のがん」と呼ばれる白血病は、三〜五歳のお子さんに多く発症します。原因は、造血機能を持つ骨髄での白血病細胞の増殖です。造血幹細胞の分化の過程で、白血球となる細胞に何らかの異常が起き、未熟なまま増殖を続けます。この白血病細胞には、体内に入ったウイルスや細菌を殺す白血球本来の機能はありません。さらに、血液の工場である骨髄を占拠するほど際限なく増え続け、赤血球や血小板などの分化・増殖を妨げます。
正常な血液細胞が造れなくなると、貧血、発熱、出血、青あざ、骨や関節の疼痛などの症状が現れます。
ただし、そうした症状が出たからといって、すぐに白血病と早合点しないでください。別の病気でも似たような症状はあります。症状が一週間以上続いたり、悪化しているようでしたら、医療機関を受診してください。
白血病は、白血病細胞が骨髄を満たし、血管にあふれ出てから初めて症状が現れるため、病気の進行に気付きにくく、早期発見が難しいのが実情です。保護者の中には気付くのが遅れたと自分を責めたり、白血病とすぐに診断できなかったかかりつけの医師に不信感を抱く方もいますが、専門医でも早期発見が難しいのです。もし、お子さんが白血病と分かったら、病気についてよく知り、担当医と信頼関係を築くことを心掛けてください。
白血病の治療は、専門医や専門看護師、専門薬剤師の綿密な計画と協力のもとで行われます。抗がん剤を使った化学療法が中心で、難治性や再発性などリスクの高い白血病には、幹細胞を移植する造血幹細胞移植も用いられています。
一九八一(昭和五十六)年、白血病の効果的な治療を探るため、全国の専門医が連携し、「小児がん白血病研究グループ」ができました。当時、小児急性リンパ性白血病患者の五〜十年後の生存率は40%にも満たないものでした。しかし、治療法の大きな進歩によって二○○○(平成十二)年には90%に達するなど、三十年前まで不治の病と言われていた白血病は今日、治る病となっています。
現在も、白血病に対する新しい抗がん剤が開発され、小児医療の現場で次々と導入されています。今後も研究が続けられ、より優れた治療法が確立されていくでしょう。
講演2「生まれる前から診断を!」-胎児心エコー検査の有用性について-
講師 中村 常之(なかむら・つねゆき)氏(金沢医科大学病院 小児科講師)
先天性心疾患の見極めに有効
出生前の胎児の約百人に一人に、心臓や心臓につながる大血管に異常のある先天性心疾患が認められます。たくさんの症例があり、経過を見守るだけでいいものから、出生後すぐに外科的な手術が必要な重度のものまであります。重症先天性心疾患としては完全大血管転位症、ファロー四微症、左心低形成症候群、総肺静脈還流異常症などが挙げられ、これらに胎児がかかっているかどうかを見極めるのに胎児心エコー検査が大変有効です。
新生児期の死亡原因の50%以上は、心臓にかかわる循環器系の疾患です。
妊娠中の胎児は肺を使っていないので、心臓の右心房と左心房の間の壁に空いた卵円孔という穴と、肺動脈と大動脈をつなぐ動脈管をうまく使って、胎盤から運ばれてきた酸素や栄養分を含んだ血液を全身に循環させます。この卵円孔や動脈管は生後まもなく自然と閉じていきますが、完全大血管転位症や左心低形成症候群といった重症先天性心疾患にかかっていると、命にかかわる場合があるので大変危険です。
胎児心エコー検査は、そうしたタイプの先天性心疾患に対して効果を発揮します。妊娠十六週以降から診断可能で、二十〜三十週にかけて最も鮮明に胎児の様子を観察できます。また、病気を発見できれば早期に治療の準備ができるので、出生後、万全の体制で手術に臨めます。
このほか、胎児心エコー検査は、保護者の精神的なケアにも役立ちます。出産後、子どもが心疾患と知ってパニックになるのを防ぐ一方、医師は出産前から出生後の治療について詳細な説明ができるからです。
十四年前に日本胎児心臓病研究会が発足して以来、全国で胎児心エコー検査が浸透しています。
北陸はこの分野では後進地域でしたが、今年四月に金沢医科大学、金沢大学、石川県立中央病院、金沢医療センターの小児科医、産科医が協力し「石川県胎児心エコー研究会」を立ち上げました。目的は出生前診断による新生児の死亡率の減少です。
当研究会では、心エコー検査の普及と精度向上を目指し、作成した検査記録用紙を県内の産婦人科病院に配布するなどの取り組みを始めました。医療は日々進歩しています。生まれてくるお子さんに最高水準の治療を提供していくことが私たちの目標です。
講演3「先天性心疾患の外科治療の最前線」
-複雑心奇形をもって生まれた赤ちゃんにも正常な発育を-
講師 秋田 利明(あきた・としあき)氏(金沢医科大学病院 胸部心臓血管外科教授)
直列の血液循環を手術で形成
先天性心疾患は、新生児の百人に一人がもっており、適切な治療を行わなければ、そのうちの約20〜30%が生後一カ月以内に、50%が一年以内に死亡すると言われています。手術が必要な割合は、出生一千人に対して六人程度で、日本全体で年間九千例ほどの外科治療が行われています。早期に病気を治療して、患児の正常な成長・発育を促すことが目的です。
先天性心疾患はチアノーゼ性と非チアノーゼ性に大別できます。チアノーゼとは、血液中の酸素濃度が低下して全身に十分な酸素が供給されず、皮膚や唇が紫色になる状態です。チアノーゼ性の先天性心疾患は予後が悪く、治療しなかった場合は一年以内に約50%以上死亡してしまいます。他方、非チアノーゼ性は比較的予後はいいのですが、心臓の左心系から右心系に血液がもれて心不全や肺高血圧に陥りやすく、成長障害も生じます。
チアノーゼ性心疾患には、ファロー四徴症、大血管転位、両大血管右室起始、総肺静脈還流異常症、左心低形成症候群などがあります。チアノーゼが現れることからも分かるとおり、全身の細胞が十分に酸素を取り込むことができないため、運動能力低下や心機能低下、脳梗塞などをきたします。
非チアノーゼ性心疾患には心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、動脈管開存症、大動脈中隔欠損症、先天性弁膜症などがあります。非チアノーゼ性心疾患では、肺から心臓に返って来た血液が、心臓内のシャント(短絡)などにより、肺にまた行ってしまいます。肺に通常の倍以上の血液が流れるため、肺の血管がボロボロになり、さらに心肥大、心拡大による不整脈、心室機能低下を引き起します。
こうした先天性心疾患の治療のポイントは、心臓や大血管を通る血流の過程が直列となる正常な循環を確立することです。
直列とは、血液が心臓の右心房、右心室から肺に行って酸素を取り込み、左心房を経て左心室から全身に送られる流れです。例えば、心臓内にシャントがあると、肺で酸素を受け取った血流がスムーズに全身に流れません。
治療の出発点は、心室が二つあるかどうか、そして、その心室が使えるかどうかです。シャントなどの異常があっても、心室が二つある場合は、手術で修復します。心室の片方が小さい、あるいはほとんどない場合は、フォンタン型手術による治療を目指します。大血管転位症では新生児早期に大動脈スイッチ術を、左心低形成症候群ではノーウッド手術を行い、血液循環の直列化を最大限図っていきます。
講演4「手術痕を残さず、機能も良好な小児外科手術をめざして」
講師 伊川 廣道(いかわ・ひろみち)氏(金沢医科大学病院 小児外科教授)
腹腔鏡下手術で傷あとを小さく
わが子が生きるか死ぬかという大きな病気にかかった場合、傷なんか関係ない、元気になってくれればいいとだれしも願います。しかし、子どもには大人と違って手術を受けてからも長い人生が待っています。手術痕より術後の機能の方が当然大切ですが、術後の機能が同じであるなら、体に残る傷はできるだけ目立たなくした方がいいというのも確かです。
金沢医科大病院小児外科では、年間四百例の手術数のうち、五十〜六十例は腹腔鏡を使い、手術侵襲をできるだけ小さくするようにしています。
対象となる疾患は、胸部では神経芽腫、奇形腫などの縦隔腫瘍や気胸、漏斗胸、横隔膜弛緩症など、腹部では食道裂孔ヘルニア、横隔膜ヘルニア、メッケル憩室、腸膜間嚢腫、急性虫垂炎、腹腔内精巣などです。
特に、腹腔鏡でやった方がいい症例がいくつかあります。その一つが、遺伝性球状赤血球症です。これは女の子に多い病気で、赤血球の膜の先天的欠陥により、脾臓の破壊が進み、黄疸、貧血、脾腫、胆石といった症状が出てきます。外科治療としては、脾臓の摘出、胆嚢の摘出を行います。
メスを使った通常の手術なら、胸の下からおなかにかけて、二十センチを超えるかなり大きな手術痕が残ります。しかし、腹腔鏡なら傷の分かりにくいおへそのところからカメラを入れて、さらに鉗子を挿入する直径五ミリの穴を他に数カ所開けて手術を進めます。傷は、全くわかりません。
腹腔鏡を使わずに、おへそからの切開で手術痕を分かりにくくする方法もあります。乳児肥厚性幽門狭窄症に対する手術法です。乳児肥厚性幽門狭窄症は生後二〜三週ごろから胃の出口である幽門部の筋肉が肥厚し、胃から十二指腸に飲んだミルクが流れていかないために、ミルクを飲む度に大量の嘔吐があります。
私どもでは、おへその部分を半円状に切開し、胃の幽門部を開腹したところまで引っ張り、肥厚した筋肉を切開します。そして、おへその傷を縫い合わせます。
ヒルシュスプルング病という、かつては巨大結腸症と呼ばれた症例のほとんどは、体に全く傷を残さずに治療しています。ヒルシュスプルング病は、下部結腸の神経節細胞が先天的に欠損しているために起きる病気で、腸管が蠕動運動せず、結腸に便がたまって大きく肥大します。当院では、お尻から手術する方法を、生後一週間の新生児期から実施しており、開腹術に比べ排便障害もほとんど残りません。
乳幼児期に肝臓を移植した場合、生存率はどのくらいですか。
[伊川]肝臓移植後の生存率は、移植の原因となった肝疾患によって異なります。一番高いのが胆道閉鎖症の95%、最も悪いのが劇症肝炎の85%となっています。
三歳の子どもが心房中隔欠損症と部分肺静脈還流異常症と診断され、いずれ手術が必要と言われました。一番負担のかからない適切な手術の時期はいつごろでしょう。
[秋田]5歳くらいが妥当です。急に症状が出ることはありませんが、中年になり不整脈などの症状が現れてからでは遅すぎます。この心疾患は手術方法が確立されていてリスクが低いので、術後も手術前と同じ生活が続けられます。
白血病細胞が消失する寛解になってから、白血病が再発する確率はどのくらいですか。
[犀川]約10%の人は再発します。ただ、白血病にもさまざまなタイプがあり、100%に近い確率で完治できるものもあれば、30%の確率で再発するものもあります。
白血病の治療法として骨髄移植をよく耳にしますが、どのような治療法ですか。
[犀川]抗がん剤による強力な治療で骨髄ごと全白血病細胞を死滅させ、新しい骨髄を移植して正常な血液が造られるようにする治療法です。ただし、合併症との兼ね合い、再発の危険性を視野に入れ、最善の治療法と判断した時にだけ移植を実施します。
リンパ腫、肝臓腫大、心臓腫瘍など、固形腫瘍の外科的な手術は小児科で行いますか。
[犀川]手術は小児外科の医師が担当します。固形腫瘍の治療法には、ほかにも化学療法と放射線治療があり、この三つをうまく組み合わせて治療を進めます。
[伊川]基本的には抗がん剤による完治を目指しますが、抗がん剤を使っても残った腫瘍については、私たち小児外科医が手術で取り除きます。 |
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