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医療記事特集
がん最前線

〔忘れ得ぬ患者〕 命尽きるまで前向きだった 葛藤乗り越え感謝の旅
北國新聞(朝刊)2007年06月04日付

 長年外科医をしていると、忘れ得ぬ患者は少なくない。私が金大を退官する直前、二〇〇四年三月に金大附属病院に入院した大浦郁代さんもその一人である。

異国の地で告知

 オーストラリアへ渡り、シドニーの保険会社に勤めて有意義な日々を過ごしていた大浦さん。帰国時に胃の痛みから訪れた金沢市内の病院で胃かいようと診断されたが、シドニーの病院で再検査し、がんを告知された。母親の静子さんは、異国の地で告知を受けた娘のショックはどれほど大きかったことだろう、と述懐されている。

 オーストラリアの医師の薦めで、金沢で手術となった。私にとっては金大在職中の最後の手術である。これまでのすべてを生かすつもりで臨んだ。

 術前の予想通り、早期胃がんに近い進行度。リンパ節転移が数カ所見られた。手術から一カ月後に退院し、万に一つの再発も考え、抗がん剤を持ってシドニーの職場に復帰した。

 ところがその年の十月に再発。大浦さんから連絡を受けたご両親が私のもとへ来られて、詳細を知った。進行度の割にはあまりにも早い再発で、にわかには信じがたかった。

 金大で治療を受けることが決まり、大浦さんは既に金大を退職した私を訪ねてこられた。

免疫療法に希望つなぐ

 大浦さんは見事だった。進行がんの末期であることをはっきりと自覚しながら、インターネットで知った免疫療法に希望をつなぎ、世話になった人への感謝の旅をしてくると私に話した。

 がん患者の症状が徐々に悪化していくときに医師がすべきことは、医学的にできるだけ手を尽くすと同時に、精神的な支えとなることである。既に主治医という立場を離れた私ができることは、金沢で免疫療法を実施する土屋晴生医師を紹介したことと、大浦さんの話を聞くことであった。

 弱音をはくこともなく、治療にも協力的だった大浦さんだが、病には勝てなかった。三十四歳の若さだった。

 母の静子さんは、宝物である娘を失って悲嘆にくれながらも、その闘病記を「あなたにあえてよかった」(北國新聞社発行)という本にまとめた。この本を読んで私は、いつも明るく前向きだった大浦さんの胸の内を知った。大変な葛藤(かっとう)を乗り越え、命尽きるまで有意義に生きた大浦さん。彼女なら「千の風」になって、大空を飛び回っていても不思議ではない。

 

 まい・まさよし=伊藤病院・内視鏡センター長・副院長、金大名誉教授



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