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医療記事特集
がん最前線

〔肝動脈遮断〕 命を延ばした生への思い 消えた肝転移巣
北國新聞(朝刊)2007年06月18日付

 私の部屋に、旧西ドイツの街を描いたあざやかなタッチの墨絵が飾ってある。作者は、私が一九八五年春に進行がんの緩和手術を行った男性患者だ。

 胃にはドーナツ状の進行がん。肝臓の左右に大きさ十二センチと、九センチの巨大な転移、さらには五センチの転移巣。これらのせいで、おなかがはる気がして近所の医師の診察を受けたところ、子供の頭ほどの腫瘍(しゅよう)があると言われ、当時私が所属していた金大がん研究所附属病院を訪れたのだ。

「余命二カ月」

 主治医となった高橋豊医師(現・金大がん研究所腫瘍外科教授)は、「余命二カ月」と家族に覚悟を促した。

 ただおなかの張りが強いことと、当時七十六歳だった患者と家族の要望が強いことから、緩和手術を行うことにした。

 胃の出口にこぶし大のがんがあったため、胃を切除した。同時に、腹満感の原因となった大きな腫瘍のある肝左葉(かんさよう)も切除した。さらに右葉転移巣がこれ以上成長しないように肝動脈結紮(けっさく)術を行った。これは肝臓に栄養を送っている動脈を縛り、がん細胞に養分を与えないようにする動脈遮断術である。

 切除された肝左葉の腫瘍は、大きさ十六センチ、重さ一〇五〇グラム。ほとんどがんに置き換えられていた。まさに子供の頭ほどのがんを抱えての命だった。

驚くほどに回復

 術後は、一過性の肝障害があったものの、驚くほどの回復力を見せ、数カ月後には退院、自宅に戻った。一家そろっての旅行を楽しんだり、温泉で金婚式を祝ったという。墨絵にも取り組み、すばらしい大作を完成された。

 しかし、年が明けた一月中旬、肺に転移。がん性胸膜炎(きょうまくえん)を併発し、呼吸困難のため、再入院。二カ月後、肺不全で息を引き取った。

 亡くなったときの肝臓からは、肉眼では転移巣が確認できず、肝動脈結紮術の効果は確かだった。あと一歩のところで救命できなかったと高橋医師は残念がっていた。

 何よりも命を長らえさせたのは、余命二カ月とされながらも頑張った、この男性患者の生への思いではないだろうか。いただいた墨絵を見るたびに、すべてのがん患者に生への強い思いを持ってほしいと願っている。



 まい・まさよし=伊藤病院・内視鏡センター長・副院長、金大名誉教授



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