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第81部・目を健やかに

(2481)アイバンク 治療支える他者の善意 光のリレー「さらに協力を」
北國新聞(朝刊)2020年08月30日付

角膜移植手術を執刀する小林臨床准教授=金大附属病院


 「もう、月を見ることはできないのか」

 金沢市の30代男性は、諦め交じりに夜空を見上げる日々を過ごしていた。乱視は悪化の一途で、月は10個にぼやけて見える。当たり前だった景色は全て変わってしまった。「角膜移植に期待しましょう」。医師にこう励まされてから、随分と時がたっていた。

 男性が患っていたのは「円錐角膜」である。角膜が薄くなって、前へ前へと突き出し、文字通り円錐の形になる眼病だ。その症状は、ちょっとしたまぶしさから始まった。次第に物がぶれて見えるようになり、どんどん光に過敏になった。医師の指導で、角膜の突出に歯止めをかける特殊なコンタクトを装着したが、症状はひどくなっていく。

「乱視が消えた」

 角膜移植は、望めば誰もが受けられるわけではない。シビアな現状を男性も知っていただけに、「ドナーが見つかった」という知らせが届いた時には、心から感謝が込み上げたという。移植手術を受け、目を開いた。「乱視が消えた」。信じられないほどきれいな世界が目の前に広がり、男性のほおを涙が伝った。

 角膜は、黒目部分を覆う、厚さわずか0・5ミリの透明な膜だ。これが病気やケガによって濁ったり変形したりすると光を正常に通せなくなり、視力の著しい低下や失明を招く。点眼薬などで治療できない場合、最後の望みとなるのが、角膜移植である。

 角膜移植の対象となる病気は多い。金大附属病院眼科の小林顕臨床准教授によると、「円錐角膜」のほか、角膜が水分を含むことで起きる「水疱性(すいほうせい)角膜症」、細菌や真菌、ウイルスを原因とした重度の角膜感染症、けがによる損傷なども対象となる。角膜を必要としている人は多いのだ。

 角膜移植を支えるのが、角膜を提供するドナーと、手術を待つ患者をつなぐ組織、アイバンクである。

 小林臨床准教授によると、石川県内では角膜移植を待つ人が年間50人ほどいるのに対し、提供者は5〜10人にとどまる。このため、他県のアイバンクに提供してもらう場合もあるという。石川県アイバンク理事も務める小林臨床准教授は「現状では望んだ人すべてが手術を受けられるわけではない」と話す。

認知度低く

 ドナー登録が低迷する背景には、献血や骨髄提供と比べて認知度が低い上、死後とはいえ目を失うことへの抵抗感があるとみる向きもある。

 小林臨床准教授は「目を摘出すると故人の顔が変わると心配する人もいるかもしれないが、義眼を入れるので、ほとんど変化はない」と説明する。ただ、遺族感情は複雑で、角膜移植は一朝一夕に増やせない悩ましさがある。

 iPS細胞で人工的に角膜を作り出す臨床研究も進められているが、実用化まではまだ時間がかかるとされる。

 「その日まで、角膜移植を支えるのは、私たち医師だけでなく、誰かの善意なのです」と小林臨床准教授。目の不自由な人が今、この時も待っている。同じ郷土で暮らす誰かを笑顔にするために、「光のリレー」の存在を知っておきたい。(第81部・おわり)



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